メタボリックシンドローム
高血圧
家庭血圧は、高血圧患者さんの予後や臓器障害を予測するための優れた指標となる。大迫研究によって、家庭血圧が135/85mmHg以上になると脳卒中発症リスクが有意に高くなることが明らかとなり、135/85mmHg以上が家庭血圧の高血圧の基準値として世界的に定着した(わが国では年間200万台以上の家庭血圧計が販売され体温計や体重計の普及率に匹敵しており、積極的に活用すべきである)。また、端野・壮瞥町研究によると、ウエスト周囲径の増大を必須条件として血圧130/85mmHg以上で、非MSと比較して約1.8倍の心血管イベントの高い発症率を認めたと報告されている。
最近注目されているのは、医療機関での血圧が140/90mmHg未満でありながら、家庭血圧だけが高い「仮面高血圧」の存在で、特に早朝高血圧(家庭での収縮期血圧135mmHg、拡張期血圧85mmHg以上)が心血管イベントの高リスクの病態として関心を集めている。早朝は副交感神経から交感神経へ移行する時間帯で、交感神経が急に活発になり、レニン・アンジオテンシン系が関与して血圧が急上昇するとイベントに繋がることがあると言われている。
(a)高血圧の診断
疫学的調査で、正常血圧は収縮期血圧120未満、拡張期血圧80未満とされている。一方、高血圧は収縮期血圧140以上、拡張期血圧90以上となっているが、血圧140という値は140未満に降圧すれば心血管疾患が減少することが証明されている値である。120と140の間の130台はグレーゾーンで正常高値(JNC7では前高血圧と名付けている:この血圧でも正常血圧者に比べリスクが高いというFramingham研究結果があるため)と呼び、120台は正常、120未満は至適血圧という。
(b)高血圧の降圧目標
年齢と収縮期血圧と冠動脈疾患、あるいは脳卒中との関係を見ると、40歳代から80歳代のいずれの年齢群においても、血圧の上昇に伴って冠動脈疾患死、脳卒中死のいずれも増加している。また、治療中の収縮期血圧が130mmHg未満から180mmHg以上まで、治療中の血圧が高くなるほど心血管系疾患の発症リスクは増加する。そこで、日本高血圧学会ガイドライン(JSH2004)の降圧目標値は、高齢者140/90mmHg未満、若年・中年者130/85mmHg未満、糖尿病・腎障害患者130/80mmHg未満としている。
糖尿病
糖尿病増加の理由は、脂肪摂取量の増加、運動不足、肥満によるインスリン抵抗性、その結果としてのMS、そして日本人は欧米人に比べてインスリン分泌が1/2程度で膵臓のβ細胞機能が弱いという民族的特性からインスリン分泌不全に陥りやすいことなどが考えられる。
糖尿病の合併症として、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病末梢神経障害の3つが知られている。これらは細小血管症による疾患で、長期間の糖尿病によってその障害が起こる。一方、冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)や脳卒中は大血管症といい、これには糖尿病になる前段階(境界型)での食後高血糖が関与していることが分かってきたので、食後高血糖の治療の重要性が強調されるようになった。
(a)糖尿病の診断基準
ブドウ糖負荷検査GTT(朝、空腹時にブドウ糖75gを飲ませ、飲む前と飲んだ後1時間目、2時間目に血糖、インスリン、尿糖を測定する)で診断する【図7】。空腹時血糖は110mg/dl未満まで正常、110~126mg/dlは境界域、126mg/dl以上は糖尿病である。ブドウ糖服用後2時間で140mg/dl未満に低下するのが正常で、140~200mg/dlの間は境界域、200mg/dl以上を糖尿病と診断する。負荷後2時間の血糖値が境界域のものはIGT(impaired glucose tolerance)と呼んでいる。一方、空腹時血糖だけが境界域のものはIFG(impaired fasting glycemia)と呼び、IGTとIFGは「境界型」糖尿病と診断される。米国では検診費用が節約できることから空腹時血糖を重視して、それで糖尿病を診断しているが、食後高血糖が心血管系疾患のリスクであることが分かりIGTの診断が重要視され、GTTや食後2時間での血糖測定に意義がある。

(b)食後高血糖
山形県の舟形町スタディによると【図8】、正常者、IGT、IFG、糖尿病者の4群で心血管病の発症を観察すると、糖尿病者は正常者に比べて3倍死亡しやすく、IFGの生存率は正常者と区別がつかなかったが、IGTは正常者と糖尿病者との中間であった。この結果、IGTとIFGとを一緒にするのは問題であることが指摘された。DECODE研究【図9】では、総死亡に関与する空腹時血糖の関与は少ないが、空腹時血糖が低くても食後2時間の血糖が上昇するに従って死亡率が高くなることが分かっており、食後の高血糖が糖毒性を介して動脈硬化の進展に関与するとしている。


(c)ヘモグロビンA1c
糖尿病ではその診断・治療の指標としてヘモグロビンA1C(以下、HbA1cと略)が用いられる。HbA1cは糖化蛋白質の量を現す、つまりヘモグロビンという蛋白に結合した糖の量をみているのである。正常者のHbA1cは5.8%未満で、HbA1cが高いということは、血中に長い期間に亘って糖が過剰に存在することを意味しているので、これを血糖コントロールの指標としている【図10】。

まとめ
(1)動脈硬化の原因として高コレステロール血症、とりわけ高LDL-C血症の重要性は確立していた。
(2)しかし、生活習慣の変化(過食、運動不足)によって肥満・糖尿病・高脂血症が増加し、元来高頻度であった高血圧症と共に冠動脈疾患の危険因子が集積してきた。これらのうちLDL-C以外の危険因子が集まった病態をメタボリックシンドロームとして、動脈硬化のハイリスク状態と位置づけている。
(3)危険因子の集積は偶然ではなく、それらの因子の上流には肥満による内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性がある。つまり、内臓脂肪の脂肪細胞からは種々の生理活性物質が分泌され、それによって糖尿病・高脂血症・高血圧の発症を促していることが分かってきた。
(4)メタボリックシンドロームの予防・管理としては、個人の体重測定、腹囲測定、そして万歩計、血圧計などを利用した自己管理で動機付けするのが有効である。また、腹7~8分目、減塩、禁煙なども忘れてはならない。
(5)21世紀は血管疾患予防の時代となる。厚労相の推計では、高血圧3,100万人、高脂血症3,000万人、糖尿病740万人といわれていて、生活習慣病対策、動脈硬化対策としてのMSの取り組みは大きな課題であります。
出典
新聞切り抜き:中日新聞 2006.5.9
表1、図1、表2、図2、図3:医学のあゆみ Vol.213 No.6 2005.5.7
図4、図5:日医雑誌 第130巻・第1号/平成15年7月1日
図6:名古屋内科医会会誌 第110号/2002.3.15
表3、図7、図9、図10 名古屋内科医会会誌 第119号/2005.3.15
図8 日医雑誌 第131巻・第2号/平成16年1月15日