気管支喘息

はじめに

気管支喘息とは、鼻から肺まで空気を送る「気管支」と言う管状の臓器に炎症が起き、気管支が狭くなりヒューヒューと音が鳴ったり、呼吸がし難くなったり、咳が出やすくなったりする疾患です。

炎症について日焼けで起きる皮膚炎(いわゆる日焼け)で考えてみましょう。
お日様に焼けてそのあとヒリヒリ痛くなりますよね。
そのような状態が気管支粘膜に起きるような感じです。
気管支に炎症が起きる理由は、体質(遺伝など)と環境要因が組み合わさって起きると考えられています。
環境要因には主に二つあります。

ひとつ目は感染症。そのほとんどは風邪です。
風邪を引いて気管支にウィルスなどが侵入すると気管支炎が起きることがありますが、このようなとき気管支喘息を発症しやすい体質(遺伝)を持った人の気管支で、喘息状態が併発します。

ふたつ目はアレルギーです。
ダニや家のホコリなどにアレルギー反応を起こしやすい体質を持った人が、そのような物質を吸入すると、気管支にアレルギー性炎症が起き喘息を発症します。
ただアレルギー反応の強さは人によってかなり異なります。
IgEのRAST反応と呼ばれる血液検査に、強い反応が現れている人でも喘息を発症しなかったり、RAST反応が弱い人でもしっかり喘息が現れることもあります。

さて、このようなことから運悪く喘息を発症した場合、注意していただきたい点があります。

注意点1

気管支の炎症は風邪が原因にせよ、アレルギーが原因にせよ、一旦始まると急には改善しません。
特に風邪が原因の場合、見た目の風邪症状が治ってしまえば、もう治療を中止してよいと考えがちですよね。
でも気管支に起きた炎症はくすぶり続けます。
ですから、まずは表に見て取れるしつこい咳やヒューヒューと言う音などの喘息症状が完全になくなってから、徐々に治療薬の減量を行うのが大原則です。

注意点2

風邪が原因で喘息を起こしやすい人は、その予防が大切です。
風邪の予防で一番確実に行えるのは、インフルエンザワクチンによるインフルエンザの予防です。
ですから10月〜11月になりましたらインフルエンザのワクチンをお受けください(文献1)。
つぎに水道水によるうがいの予防効果が知られています。
風邪シーズンになりましたら、1日3回水道水によるうがいを行ってください(文献2)。
手についた風邪ウィルスを、鼻をこすった時に鼻に侵入させないために、手洗いも有効だと思います。

注意点3

アレルギーで喘息を起こす方は、ダニ、家のホコリ対策が大切です。
家の中で一番長く過ごす場所は寝室です。
ですから寝室の布団や床の掃除を頑張ります。
たとえば毎日お布団に掃除機を掛けて、ダニやホコリを吸い取ります。
週に一回くらいお布団をお日様に当てて、日光でダニを殺しましょう。
これも科学的に有効性が確認されています。
居間のソファーはダニが侵入できる布製から、侵入しにくいビニール製や革製にできれば、より良いです。
またダニの温床となるじゅうたん絨毯はできるだけはがした方が良いです。
それと犬、ネコ、モルモット、ハムスターなどのペットはできるだけ飼わないようにしてください。
これらの動物は、毛にアレルギーを引き起こさせる性質があるだけでなく、その毛やフケを餌とするダニが増える原因になります。
アレルギー性の炎症はできるだけ繰り返させないことが、アレルギー体質からの脱却の大切な要因となります。

治療について

治療で一番大切なお薬は、直接気管支の炎症を取ることのできる吸入ステロイドのお薬です。
ステロイドと言うと副作用を気にされる方も多いと思いますが、吸入ステロイドの優れた点は、気管支の表面から血液中に入った場合、すぐにステロイドとしての働きを失うことがあります。
気管支の表面だけでステロイドとして働き、炎症の火消しをしてくれます。
まれに喉の炎症を起こすことがありますから、吸入後のうがいが大切ですが、それ以外の副作用はほとんど気にしないで、きちんとご使用ください。
治療を過少に行う、つまり決められた通り行わないことが、喘息難治化の要因であることが知られています(文献3)。

吸入ステロイド以外にも各種薬剤を併用し、気管支の炎症を改善させます。
そして喘息の症状が完全に良くなったことを確認しながら、各種治療薬を徐々に減量しますので、医師の支持を守ってください。

次にそれでもご家庭で喘息発作が起きたときの対応です。
喘息は自律神経の日内変動により、夜間や明け方に悪化しやすいのですが、ヒューヒュー音や咳こみが起きましたら、サルタノールやメプチンといった加圧式吸入器を2吸入してください。
20分おきに3回繰り返します。
それでも改善せず不安を感じましたら、病院の救急外来を受診してください。
もちろん改善すればそのままお休みいただければ結構です。
そしてそのようなことがいつ起きたか記録しておき、次回受診の際にお知らせください。

その他:運動誘発喘息について

かけっこなど、息切れしやすい運動をしたあと、喘息を生じる疾患です。
あらかじめ分っている方は、加圧式吸入を2吸入してから、かけっこをされるとある程度予防ができます。
運動は体に良いことですから、きちんと治療をしながら運動を続けましょう。
運動誘発喘息は、運動直後に起きるものや、翌日になって起きるものなどがありますから、気がつくことがありましたら、医師までお申し出ください。

その他:アルコール誘発喘息について

アルコール飲酒が喘息の誘引になる方もあります。
これも各種治療薬が有効です。
でも何といっても、アルコールを控えることが一番大切ですね。

その他:妊婦さんの喘息治療について

妊娠中の方でも、胎児に影響なく安全に継続できる喘息治療があります。
妊娠の可能性がある方や、あるいはこれから赤ちゃんを作られる予定のある方は、医師までお申し出ください。

最後に

一概に喘息と言いましても、ずいぶん個人差があります。
お子様のうちは喘息を起こしやすい方でも、体の成長と共に自然寛解していく方が大半です。
また風邪を引いても、喘息が起きたり起きなかったりする方から、軽い風邪でも喘息が長引きやすい方など頻度も様々です。
1ヶ月に1回程度以下の発作回数でしたら、加圧式吸入器の発作時の使用だけで大丈夫です。
一方それ以上の頻度で発作が起きる方は、朝晩かならず行う吸入ステロイドの治療を中心とした気管支の炎症対策が必要です。
繰り返しになりますが、過少治療は喘息が長引く原因になります。
朝晩の吸入ステロイドを中心とした定期治療をきちんと行えば大変良くなる疾患ですから、医師の支持に従い根気よく治療をご継続してください。

文献

1. Sugaya N et al. Efficacy of inactivated vaccine in preventing antigenically drifted influenza type A and well-matched type B. JAMA. 1994 Oct 12;272(14):1122-6.
2. Satomura K et al. Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med. 2005 Nov;29(4):302-7.
3. Rea HH et al. A case-control study of deaths from asthma. Thorax. 1986 Nov;41(11):833-9.

ページの先頭へ戻る