AMR(抗菌薬耐性)の問題について
風邪や胃腸風邪に抗菌薬はいりません
~無効なばかりでなく、有害ですよ!
戦後のペニシリンの出現は、多くの感染症から人びとを救い、抗生物質は風邪にも効くという誤解が生まれました。風邪をひくと診察も求めて、抗生物質を処方してほしいと要望されることがしばしばありますし、医師も安易に処方しがちです。
しかし、ちょっと考えてください。抗生物質・抗菌剤はウイルスに無効なのです。喉の痛み、鼻汁、咳などの風邪症状、下痢などの急性胃腸炎の9割はウイルスが原因です。抗菌剤は細菌による感染症には必要な場合がありますが、ウイルスには全く効果がないばかりか、有害なのです。無駄な抗菌薬の使用は耐性菌の出現を促して、抗菌薬が効かなくなった耐性菌は全世界でAMRと呼んで大問題となっています。
- ◆抗菌薬とは
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抗菌薬とは、細菌を壊したり増殖を抑えたりする薬剤です。そのうち、カビのような微生物が作った化学物質、たとえばペニシリンなどは抗生物質(抗生剤)と呼んでいます。
- ◆抗菌薬の薬剤耐性
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新薬の開発はどんどん減少しています。何故かというと、開発には莫大な資金がかかりますが、新薬を販売する頃にはもうすでに耐性菌(AMR)が出ていて十分にペイできないという現状があります。薬剤耐性は大きな医療問題であり、それに打ち勝つだけの新薬開発は徐々に先細ってきているのです。
薬剤耐性菌で治療ができなくて亡くなる方は世界で70万人と言われており、今、耐性菌に対する十分な対策を取られなければ、2050年には耐性菌による死亡は1千万人に達するという推計があります。
- ◆薬剤耐性(AMR)アクションプラン
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このような背景から、WHOは2015年にGlobal Action Planを発表しました。日本でも、それに呼応して、伊勢志摩サミットが開催された2016年から2020年にかけての6項目のAMR対策アクションプランが立てられました。このなかで私たちが重視しなければならないのが4番目に挙げられている「抗菌薬の適正使用」です。
- ◆耐性菌
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腸内には100兆を超える腸内細菌の常在細菌叢があります。そこに少量の耐性菌が入っても消えていきますが、抗菌薬が投与されると耐性菌が生き残り、抗菌剤が長期に投与されると腸内細菌叢の多様性が失われて耐性菌が増加することになります。たとえば、尿路感染の起炎菌はほとんどが自身の大腸菌によりますが、不適正な抗菌薬の投与によって、次からは耐性菌が病気を起こすことになり、薬が効かなくなります。抗菌薬で腸管内の耐性菌が選択されるのは内服でも注射でも起こります。
まとめ
- ①
薬剤耐性(AMR)は世界的な問題であり、日本でもアクションプランが作成された。
- ②
抗菌薬の使用で薬剤耐性菌が選択されて、その耐性菌による感染症を起こすことになる。
- ③
抗菌薬の適正使用は、病院においても、かかりつけ医においても重要である。
抗菌薬の適正使用
急性上気道感染症や下痢症に対して『抗微生物薬適正使用の手引き』が厚生労働省から出版されました。そのダイジェスト版の手引きには急性気道感染症の疾患概念も記載されています。喉の症状、鼻の症状、気道の症状に分けて、それが有意に強いものを、それぞれ「咽頭炎」、「鼻副鼻腔炎」、「気管支炎」と呼んでいます。漠然と全体的に症状があれば「感冒」いわゆる風邪です。
- ◆感冒
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感冒の50%以上はライノウイルスによる感染症であり、ほかにも感冒のウイルスはありますが、服薬しなくても1週間半で自然治癒します。感冒に対して抗菌薬を投与しても、症状の持続期間に変化はなく、その副作用は明らかに増加するので、感冒では抗菌薬の投与は推奨されません。
- ◆急性鼻副鼻腔炎
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これも原因はほとんどがウイルス性で、自然経過は2週間半ぐらいです。細菌性が原因となる頻度は2%以下で、その場合は肺炎球菌、インフルエンザ菌、A群溶連菌、モラクセラ、嫌気細菌などが原因菌となります。抗菌薬投与のメリットがあるのは、副鼻腔炎のために後鼻漏(鼻汁が喉の奥に垂れてくる)症状がある場合です。軽症では抗菌薬を使用せず、重症の場合には抗菌薬(アモキシシリン内服)が推奨されます。
- ◆急性咽頭炎
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咽頭炎はウイルス性が多いのですが、15%は非ウイルス性でA群溶連菌、C群・G群の溶連菌、黄色ブドウ球菌の他に、口腔内では嫌気性菌の混合感染を起こすことがあります。
咽頭周囲膿瘍は咽頭炎の怖い合併症ですが、その頻度は1.3%と稀です。化膿性合併症の予測には、①扁桃の強い炎症、②強い耳の痛み、③Centor criteria(A群溶連菌感染症の判定基準で、扁桃の腫脹と浸出物、前頚部リンパ節腫脹、発熱、咳がないこと、の4項目で評価する)、④Fever PAIN score(発熱、膿、急性発症、強度の扁桃炎、咳がないこと、の5項目で溶連菌感染を評価する)などがあります。
溶連菌感染症は、迅速抗原検査キットまたは培養検査で確認し、検出されなければ抗菌薬投与は推奨されません。検出された場合はアモキシシリン内服10日間の治療を基本としています。
- ◆急性気管支炎
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難しいのは急性気管支炎で、肺炎のリスクがあるため抗菌薬を処方したくなりますが、その原因はほとんどがウイルス性です。非ウイルス性では、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳など、いわゆる非定型菌と呼ばれる感染症があり、この場合は咳が遷延して自然経過は3週間かかります。
急性気管支炎に対する抗菌薬の使用は、胸部レントゲン撮影で肺炎の所見がなければ抗菌薬の投与は推奨されません。しかし、肺炎を見逃す恐れがあって対応が難しく、診断の不確実性や予期せぬ合併症への恐れがある場合は、抗菌薬を全く処方しないのではなく後日処方することが推奨されています。すなわち、急性気道感染症の治療には抗菌薬は不要ですが、この不確実性とリスク回避のためにセーフティネットとして、まずは投与しないが経過によって後で処方する戦略(delayed prescription strategy)が考えられています。
- ◆急性下痢症
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夏や冬には急性下痢症(胃腸かぜ)が流行しますが、原因はほとんどがウイルスですので抗菌薬は使用せず、水分摂取を励行して対症療法のみとなります。下痢は1週間程度で自然治癒します。不要な抗菌薬の投与は善玉の腸内細菌を殺す可能性があります。
食中毒を起こすサルモネラやカンピロバクターに対しても、軽症の場合は抗菌薬の投与は推奨されず、重症化の可能性が高い場合に考慮することになっています。3日以上経過しても改善しない場合は再受診が必要です。
愛知県内科医会 安藤 忠夫
不適正な抗菌薬の投与によって、次からは耐性菌が病気を起こすことになり、薬が効かなくなります。


