健康コラム
令和2年 メタボを考える~なぜ健康に悪いのか

肥満(メタボ)を考える
 ~なぜ健康に悪いのか

メタボリックドミノという捉え方で2003年に伊藤 裕先生が発表された有名な図があります。そのドミノの出発点は「生活習慣」であって、その次のドミノの駒は「肥満」です。肥満に起因する内臓脂肪からは様々な生理活性物質が分泌されて「インスリン抵抗性」を生じ、「代謝異常」から食後高血糖、高血圧、高脂血症をもたらす。これがメタボリックシンドロームであり、それによって動脈硬化が促進され、日本人の死因の3割を占める「心血管病」、すなわち虚血性心疾患の狭心症や心筋梗塞そして脳梗塞を筆頭に、様々な疾患が引き起こされます(図1)。

図1 日本内科学会雑誌 107 巻 9 号 1913頁
伊藤 裕 慶応義塾大学教授 「メタボリックドミノと先制医療」から引用

ドミノ倒しの最初の引き金の駒は「肥満」で、その駒が倒れるとバタバタと倒れて行って、「心血管病」に至るのです。したがって、心血管病を予防するためには、遡って肥満を是正すること、その基となる「生活習慣」、すなわち食事、運動、睡眠などの習慣を見直していくことが大切になります。最後に至って表れるため「生活習慣病」といわれる所以です。注意が必要なのは、外見上は太っておらず体重は標準でも、内臓に脂肪がたまる「隠れメタボ」です。

動脈硬化を促進する危険因子(リスク)には、従来から肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙などが挙げられていました。そのリスクが重なるほど冠動脈疾患(狭心症・急性心筋梗塞)の発症が高まることが分かっています。その危険因子をいくつ持っているかを健診で早期に発見し、生活習慣の改善で危険因子を減らして予防する試みが「特定健診・特定保健指導」です。この健診は、40歳から74歳までを対象に2008年4月から始まりました。それまでの成人病健診を見直して日本人の死亡原因の3割を占める動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞)を早期に予防するためです。これがメタボ健診と呼ばれ、メタボという言葉が認知される契機となりました。

肥満とは

体型は見た目で判断できますが、体重と身長で割り出してBMI(体格指数)で肥満度が判定されます。 BMI=体重kg ÷(身長m×身長m)

たとえば、身長170㎝(1.7m)で体重75㎏とすると、BMIは75を1.7の2乗で割るので、25.9となります。ご自分の身長と体重でBMIを計算してみてください。

この指数が25以上を肥満、35以上を高度肥満と診断し、逆に指数18以下は低体重(痩せ)です。理想的な体格はBMIが22~23の場合で死亡率が少ないと言われていますが、このなかにも隠れ肥満があることを忘れてはなりません。死亡率を上げるのは、体脂肪量の増加と骨格筋の減少によると言われています。

肥満だけでは病気とは言われませんが、肥満では様々な代謝異常が現れて、肥満による健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群など)を伴うと、「肥満症」と称して病気としての治療が必要となります。

体重を計る

肥満は食べすぎ、運動不足が原因であることは常識ですが、なぜ肥っているかが分かっていてもその生活習慣を改善することは難しいものです。一番良い方法は、毎朝、毎晩の体重測定です。1日2回測定するのが大切で、計る前に何㎏か?自分で予測しながら体重計に乗ってみる。測定結果をみて、今日は食べすぎであったか、今日は食べすぎに注意しようと心に刻むことが大切です。測定値を知るだけでは、栄養管理に心が動きません。毎日、体重測定をしていると、今朝は何キロ何百グラムかが、ぴたっと当たるようになります。

食事の管理と運動によるカロリー消費とは、どちらがやり易いでしょうか。どちらの方法にしても生活習慣に取り込む必要があります。

運動療法

運動で筋肉を動かすと、過剰な血糖を筋肉に取り込んでくれます。糖尿病でインスリン抵抗性のため筋肉に糖が取り込めない場合でも、運動後1時間はインスリンを使わずに筋肉が糖を取り込んでくれるので、とくに糖尿病の方では食後の運動が効果的です。この場合、効率よくエネルギーを消費するためには筋肉量の多い大腿四頭筋や大殿筋の筋肉運動が必要です。体は、運動の強度によってエネルギー源を使い分けており、そのエネルギー源となるのが筋肉内のグリコーゲン、血液中のブドウ糖、そして体にため込んでいる脂肪です。

2種類の運動があり、その1つが有酸素運動の歩行による持久トレーニング、もう1つは無酸素運動の筋肉トレーニング(筋トレ)です。有酸素運動では赤筋線維(遅筋線維)が、筋トレでは白筋線維(速筋線維)の筋肉が使われます。どちらが効率的に筋肉の燃料倉庫を空っぽにできるかというと無酸素運動の筋トレです。一方、有酸素運動がダイエットに適しているといわれるのは、運動時間が20分以上長くなると体脂肪が燃料として使われるためです。

なぜ運動は心臓にいいのか~マイオネクチン

有酸素運動をすると、骨格筋からマイオネクチンが分泌され、毎日運動を続けると2~3倍に増加します。このマイオネクチンに心筋梗塞を小さくする働きが認められ心臓を保護することが分かっています。

筋トレ~スクワット運動

筋トレのスクワット運動は、午前中を避けて夕食後30分したら始めるのが良いです。肩幅に両足を広げて、ゆっくりと1,2,3,4,5と声を出しながら5秒かけて腰を落とし、太ももが床と平行になったら、そこで6,7と2秒静止してから、立ち上がるの方法が7秒スクワット(宇佐美 啓治 先生)です。これを10回繰り返して1セット、少し休んで、もう2セット繰り返します。1日3セットを週2回するだけで糖尿病の血糖値を改善し、サルコペニア(筋肉減少)やロコモティブシンドローム(運動器障害)を予防します。ウオーキングする時間がないときにはお勧めの運動です。

有酸素運動のウオーキングで1万歩を歩くのには、1000歩を10分とすると100分(1時間40分)かかります。高齢者には無理があるので2004年のガイドラインからはレジスタンス運動も考慮されるようになりました。

食事療法

肥ると脂肪細胞のなかの油滴が大きく膨らんで、その油滴膜から分泌されるアディポネクチンの分泌が低下します。アディポネクチンは、食後の血管のなかの脂を掃除してくれるのですが、肥満の脂肪細胞からはアディポネクチン分泌が低下して食後の脂が掃除されず、血管にごみが溜まった状態となります。これが動脈硬化で、冠動脈で起これば狭心症・心筋梗塞となり、頭で起これば脳梗塞になります。アディポネクチンを高める食品には、青魚(サバ、イワシ、サンマ)に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)、大豆(豆腐、納豆)、お茶(杜仲茶、ウーロン茶)、玄米などがあり、「和食」がお奨めです。

腹8分目

2009年のScience誌に2頭のサルの写真が掲載された。左のサルは若々しく、右のサルは毛も抜けしわも多くて元気がない。どちらも25歳の老袁(ヒトでいうと85歳)であるが見た目の年齢は右のサルに相当する。ところが左の若々しいサルも25歳である。この2頭の違いは食事であった。若々しいサルでは人為的に餌を3割カットして17年間飼育してきた。つまり、生まれてきてからずっと腹八分の状態しか経験していない。腹八分のサルの方が年老いても、毛は多くツヤツヤで見た目が若く、がんと心臓病が極端に少なかったことで、食事が大事であることが示めされた。

そこで、マウスの餌を3割カットして腹八分で飼育したところ、アディポネクチン濃度が1.8倍に増加して血流が改善した。これは、先ほどのサルのカロリー制限の研究結果と同様で、心血管には食事が大事であることが確認できた。

脂肪の1kgはカロリーに換算すると7000Kcal

ウエストサイズを1cm減らすには内臓脂肪を1kg減らす必要があります。脂肪の1kgはカロリーに換算すると7000Kcalで、これを1か月(30日)で実現しようとすれば、7000を30で割って、「1日230Kcalぐらい減らせば、1か月で7000Kcal摂取カロリーは減少して、ウエストサイズを1cm減らすことができる」はずである。

確かにビール(265Kcal)、ロールケーキ(275Kcal)、アイスクリーム(267Kcal)、とんこつラーメンのスープ半分を残すと大体200~300Kcalのカロリー制限ができる。この数字は利用価値がある。「マイナス250Kcalの感覚」をつかみ、たとえば、から揚げ定食は照焼き定食に替える、メロンパンはサンドイッチに替えるなどである。

愛知県内科医会 安藤 忠夫

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