健康コラム
令和5年 人生100歳時代を考える

人生100歳時代を考える

ヒトの寿命は延びて、人生100歳時代を迎えようとしています。100歳以上の日本人は9万人を超え、88%が女性です。50年ほど前は100歳以上の人は63人しかいなかったので、随分増えたものです。現在の国内最高齢は大阪の巽フサさんという女性で116歳です。男性は広島の中村茂さん111歳です。

長生きで望まれること

長生きで望まれることの一つに、死ぬまで健康でころっと死ぬ「PPKピンピンコロリ」というのがあります。その反対は要介護となって看取られるケースで、これを「NNKネンネンコロリ」と言います。死ぬまで健康でいるためには、「いかに認知障害を起こさないで長生きできるか」ということが重要になってまいります。平成28年度の調査では要介護の原因として認知症18%が最も多くを占めるようになり、それ以前の15%から増加しています。その前の平成25年の調査までは脳卒中による要介護者が多かったのを認知症が追い抜いています。脳卒中による寝たきりは減少しつつあり、認知症や骨折・転倒による運動器疾患による寝たきりが増加しつつあります。

「人生百年時代」の提唱

2016年にリンダ・グラットン教授(ロンドン・ビジネススクール)が『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略』を著し、「人生百年時代」という言葉の提唱者とされています。2007年にHuman Mortality Databaseでは「2007年生まれの子供の半数が到達する年齢」(図)が報告されています。これによれば、日本人は107歳であり、その時に同窓会をすれば半数が出席できることになります。この報告が、日本政府の言う「100年時代の到来」の根拠となり、2017年9月に安倍総理と茂木大臣は「人生100年時代構想推進室」を設けました。

現在の日本の平均寿命を見てみると、男性は81.4歳、女性は87.5歳です。そこで、80歳の方の平均余命を見ると、男性は8.6年、女性は12年の寿命がまだあるのです。

日本人の死因と要介護の3大疾患

日本人の死因別の死亡率の推移をみますと、戦前は肺炎や結核などの感染性疾患が多かったのですが、近年はがん、心血管系疾患(脳卒中・心筋梗塞)、老衰などの非感染性疾患(NCDs)による死亡率が増加しています。高齢化に伴って平均寿命は延びても健康寿命の延びが伴っていない背景には、心血管病で寝たきりになる他に、認知症・フレイル・ロコモティブシンドロームの影響があります。

要介護の3大疾患は、①認知症18%、②脳卒中16%、③高齢による衰弱13%、そして骨折・転倒12%ということになります。名古屋市では認知症を早期に発見するために令和2年1月から「もの忘れ検診」がスタートしています。

寝たきり予防

①高齢による衰弱、②転倒・骨折、③関節障害(10%)の3つを運動器の障害と捉えますと、それは要介護の30%を占めることになり、健康寿命の延伸の為には認知症の予防ばかりでなく、フレイル(虚弱)・サルコペニア(筋肉量の減少)とロコモティブシンドローム(関節障害)による運動器障害の予防が重要であります。また、筋肉量が多いほど骨の強度が保たれて、運動することが寝たきり予防になると言われています。

健康寿命のための3つの柱

健康寿命とはどういうものか?「横断歩道が青信号のとき渡り切れない」状態、これでは健康とは言えなくなります。この横断歩道を渡れないのが、サルコペニア、フレイルの定義となっています。

より早期からサルコペニアやフレイルを予防するためには、「栄養」と「身体活動」と「社会参加」が有効です。「ウォーキング」はストレス解消にも最適であり、さらに高齢者にとっては骨の健康維持という点でも重要です。「まず500歩増やすことからスタートしてみては?」というアドバイスは、1日の歩数が500歩多いごとに、心血管イベントのリスクが14%低下するという研究に基づいています。70歳以上を対象とした研究では、「1日3,000歩でも心臓の健康に良い」と言われています。1万歩も長く歩く必要はないのです。

心臓の健康を維持するための「7種類の習慣」

心臓に良いことは、脳にも良い。心臓の健康を維持するための7種類の習慣が、認知症の発症リスクも抑制する可能性があると言われています。その7項目のリストには、①体を動かすこと、②健康的な食事を取ること、③適正体重の維持、④タバコを吸わない、⑤血圧と、⑥コレステロールと、⑦血糖値を良好に保つことが含まれています。この7種類の習慣が高いほど認知症の発症が少ないと言われています。さらに、生涯を通して継続的に教育を受けることと、質の高い睡眠、社会活動への参加などが、認知症リスクをさらに押し下げる可能性があります。「1日30分の運動や血圧コントロールによって、認知症の発症リスクを抑制できる」とも言われています。

まとめ

1.

「死ぬまで元気で」生きましょう

 これがPPKぴんぴんころりの秘訣です。

2.

死ぬまで元気でいるためには、

 「歩く」、「食べる」、「人と交わる」ことが大事です。

3.

元気な長生きは大事ですが、

 短くても「深く生きる」ことの方がもっと大事です。

 ボーっとしていては、人生、もったいない。

愛知県内科医会 安藤 忠夫

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